第3章 会社設立 ~資本の論理とエンジェル(個人の出資協力者)~
退職願いを受理されたからといって、翌日から生活がガラリと変わるものではない。会社を設立することは決まったが、日中は依然サラリーマンをしているため、準備活動は夜と休日にやるしかなかった。
翔一郎は初期コストの見積もりと新規取引先開拓のための戦略立案を最優先課題として取り組むこととした。
当面事務所は自宅を兼用にしてHP制作以外の経費は極力かからないように気をつけよう、できることは自分でやろう。
まもなく大海原に放り出される不安は何処へやら、無限の可能性に胸を躍らせた。
初期費用として必要なものを書き出すと、思いのほか費用がかさむことが分かった。
- 会社設立費用(実費及び手続き代行報酬)(3) 30万円
- 会社印鑑(実印、銀行印とゴム社判) 2万円
- 名刺と会社の封筒 5万円
- ビジネス用電話機 1万円
- コピー・プリンター・FAXレーザー複合機(家庭用) 10万円
- HPデザイン費用(4) 30万円
合計 78万円
諸々費用を足し加えると、ざっと80万円が無くなる計算だ。
日常生活での金銭感覚とは全く違うんだと実感した。
自宅オフィスでのスタートと決めていたため、物件を探す必要はなかった。
しかし今後のことを考えて、代々木周辺で5人程収容できるオフィスを前提条件に、不動産屋に相談してみたところ、とて も親切に教えてくれた。
一、不動産(東京都心エリア)の相場
築15~20年以上の物件では共益費込みの賃料が12~15万円程度なのに対して、築年数が浅く、外観の綺麗な物件の場合、20~25万円もすることが分かった。
また入居時に家賃の6~10ヶ月分の敷金を、初月の家賃と仲介手数料(家賃の1ヶ月分(5))とともに前払いしなければならない。
そのため家賃月30万円の物件で、ざっと200~300万円は用意していないと賃貸借契約を結べないということだ。
二、必要なスペース
社員5人まで収容できるオフィスを借りる場合、少なくとも1人当り3坪(約10㎡)は確保する必要があるため、5人で15坪は必要とのこと。
さらに打ち合わせスペースも必要なため、20坪が最低限必要な広さとなる。
そうすると、家賃だけで毎月30~50万円も支払わなければならない。
三、その他の費用
事務所を開設すると、
① 水道光熱費(月2万円程度)及び通信費(月2万円程度)
② 内線付きビジネスフォン
③ 人数分のパソコンとファイルサーバマシン
④ デスクと椅子
⑤ パーテイション(間仕切り)
⑥ コピー複合機(6)(プリンタ、スキャナ、ファックス機能付)
⑦ 会議スペースの応接セットとホワイトボード
あたりの費用を考慮する必要がある。
②から⑦までは一時の費用であるが、③や⑥についてはリースや分割払いで調達するケースが多いとのこと。
③については5人分のパソコンとサーバマシンで約60万円、⑥のコピー複合機はカラー対応で60万円以上は必要だ。
③と⑥を合わせると約120万円となり、60回払いの場合で月額2万円(別途利息がかかる)を予算に組み込むこととなる。
また②、④、⑦については、ざっくりと30~40万円は必要だ。
(5)最近では家賃の1/2ヶ月や10万円程度の定額の手数料で仲介する業者もでてきている。
(6)中古機が新品よりかなり安く販売されているが、購入後のランニングコストを考慮すると新品の方が良いと思う。
メンテナンス契約を結ぶとカウンター料金を取られるが、メンテナンス契約を結んでいないと、故障した際に驚くような高額修理費がかかることがある。
お勧めはカウンター料金を出来るだけ安くなるように交渉し、新品コピー機についてメンテナンス契約を結ぶことである。
四、事務所開設(約20坪)に必要な資金
初期費用 約340万円(一、及び三、の②、④、⑤、⑦)
月額費用 最低36万円(二、及び三、の①、③及び⑥のリース料)
小さな会社を興して維持することの大変さを改めて認識することができた。
新規取引先開拓のための戦略はというと、今までに取引したことのあるソフトウエアハウスをリストアップし、そこに売り込みをかけるべくドアノックツール(7)を作ることとした。
会社概要とサービス内容、実績についてはできるだけ具体的な事例を数多く掲げ、何ができるのか印象に残るように気をつけて資料を作成した。
これらの資料は自社HPに掲載しアピールすることにした。
退職まであと1ヶ月となった翔一郎は、会社設立登記のため、ホームページで見つけた自宅近くの佐伯司法書士事務所を訪れていた。
司法書士事務所を訪れたのはこれが初めてで、司法書士がどんな職業なのか正直知らなかった。
「はじめまして、お電話した真田です。」
「どうぞお掛け下さい。」
(7)ドアノックツールとは飛び込み営業等する際のプレゼンテーション資料のことである。
佐伯はまだ30代前半で漠然とイメージしていた司法書士とは全く違う印象だった。
最近の登記手続きはオンラインで行うことが出来るようになっていて、IT対応がスムーズな若手司法書士には活躍のチャンスがたくさんあるらしい。
「佐伯さん、会社を立ち上げるのに何を決めないといけないのか、教えていただけますか?」
佐伯は奥から、1枚の質問用紙を取り出してきた。
「この用紙に必要事項を書いてもらえますか? よかったら後でデータファイルをお送りしますよ。一応注意点を言っておきますね。」
慣れた感じで要領よく説明を始めた。
要点は次の通りだった。
一、会社の商号
株式会社であれば、前か後ろに株式会社とつく。
(株式会社○○○ or ○○○株式会社)
「漢字」「ひらがな」「カタカナ」「ローマ字」「アラビア数字」を自由に使用できる。
二、会社の目的
今すぐ開始するサービス以外にも可能性のあるサービスは挙げておいた方が良いとのこと。
許認可の必要な事業でも目的に掲げること自体問題なく、実際に手がける際に許認可を申請すればよいらしい。
会社の目的にそれが入っていないと登記変更を行い、会社の目的に追加しなければならないため時間とコストがかかってしまうとのこと。
三、本店所在地
それ程大きな留意点もないが、登記上の住所と実際の本社住所が違うケースもよくあるとのこと。
また登記住所がマンションの場合、部屋番号まで登記しておいた方が、法務・税務関係の郵便物が間違いなく届くので良いとのこと。
役所からの書類は基本的には登記住所のまま宛名が記載され ため、マンション番号が不明では、郵便物が届かないこともあるそうだ。
さらにどうしても自宅住所では都合が悪い場合は、バーチャルオフィスサービス(8)を利用して、登記住所のみ都心の一等地に構えるケースも結構あるとのこと。
(8)月額一定料金を支払うことにより登記住所を貸してもらうことができ、電話や郵便物の転送も行なっている。
貸会議室もあるので、必要に応じて登記住所にて打ち合わせを行なうことも可能。
四、資本金の額
最低資本金制度が廃止されたので、1円以上であればいくらでも問題ないとのこと。
目安としては、初期コストに2ヶ月以上のランニングコストを足したぐらいの金額を資本金にしたらいいのではないかとのこと。
ただ、資本金が1000万円未満であれば、設立後2年間消費税の納税義務は免除となり、法人住民税均等割は最低額(年額7万円)となるため、税金のことを考えると、それ が一般的には得策だそうだ。
五、役 員
1人以上いれば問題ないとのこと。
また節税面を考えると将来給与の支払いが生じる可能性があるようなら、配偶者を役員(9)に入れておいた方が良いとのこと。
(9)オーナー社長の妻は登記上役員でなくとも、結局税務上みなし役員となるため、従業員賞与のようなカタチで利益調整はできない。
反対に役員であれば役員としての定額給与設定がしやすいため
六、決算月
日本の慣行からは3月末が多く、欧米企業は12月末が多い。
いつにするかは自由であるが、それっぽい? という理由で3月にするか、初年度決算までの期間がもっとも長くなる登記月の前月末日(事業年度は12ヶ月以内でなければならない)とするケースが多い。
また商売に季節変動があって毎年儲かる月が分かっているようなら、その繁忙期の前に決算期末をもってくるのが良い。
なぜなら儲かってすぐ決算を迎えてしまうと、儲かった利益に対する税金をすぐ納めなければならなくなるためだ。
さらに会計事務所の繁忙期を避けた時期を選ぶというのも、実はうまい方法。
会計事務所は決算が集中する月は物理的に1社に費やすことができる時間が限られるため、比較的暇な時期(7~11月頃)は狙い目とのこと。
一通り話を聞いたところで、翔一郎は即決できないので、質問用紙を持ち帰らせてもらうことにし、質問用紙のデータもメールで送ってもらうことにした。
翔一郎は妻の美佳とも相談し、じっくりと考えた結果、次のような内容に決めた。
一、会社の商号 株式会社ブランニュースター
二、会社の目的
1.コンピュータシステム、ネットワークシステム及びソフトウェアの開発運用保守
2.ウェブサイトの制作及び運営
3.インターネットを利用した各種コンサルティングサービス
4.前各号に附帯又は関連する一切の業務
三、本店所在地 東京都港区芝園1―5―20―203
四、資本金の額 300万円(発起人兼全額出資者 真田 翔一郎)
五、役 員 代表取締役 真田 翔一郎
取締役 真田 美 佳(妻)
六、決算月 9月末日
設立に向けて新規取引先開拓の準備に追われていたある日、携帯に1本の電話がかかってきた。
「真田君聞いたよ。独立するんだって?」
その声は港南ロジスティックス常務取締役の八木だった。
芝園貿易と港南ロジスティックスは昔からの取引先で、八木とは入社した当時からの知り合いだった。
「はい、今月いっぱいで退社することになりました。
色々とお世話になりました。」
翔一郎は失礼のないように言葉を選んで答えた。
「IT関係の会社を興すんだって? 資金はもう集まったの? 真田君がやるんだったら出資するよ。」
翔一郎は誰かに出資してもらうことなど全く考えていなかったので、何と言っていいのか分からなかった。
「事業計画は作ってあるの? 一度見せてよ。良かったらメールで送って。」
翔一郎は分かりましたと答えるのが、精一杯だった。
そして帰宅後、事業計画書を八木へ送った。
翌日、八木から電話が入り、芝園貿易近くの喫茶店で会うことになった。
「真田君久しぶり! 元気そうだね。」
八木は翔一郎を見つけると立ち上がり、握手をもとめた。
「はい、おかげさまで。」
翔一郎も八木の勢いに負けないように元気よく答えた。
「事業計画書見たよ。ちょっと堅実すぎるんじゃないの? 小さくまとまり過ぎている気がするんだよな。
事業を成長軌道に乗せるんだったら、もう少し資本金を増やして、広告宣伝費をかけてみたらどうなの? 資本金は300万円で考えてるんだよね?」
「はい、十分でないことは分かっていますが、これが限界かなというのが正直なところです。」
八木はうんうんと頷うなずくやいなや、翔一郎に提案した。
「僕が200万円出資するよ。そして社外取締役になって翔一郎のビジネスをサポートするよ。
その代わり取締役の役員報酬として月10万円はもらうけどどうかな?」
八木は顔も広いし、何かと協力してくれるだろう。
10万円の役員報酬は痛いけど、半年で軌道に乗せられたら、役員報酬の60万円を差し引いたとしても140万円残る。
これを広告宣伝費に回せれば、少し余裕をもってスタートできるだろう。
翔一郎は即答しそうになったが、一応検討させて下さいと伝え、改めて連絡を入れることとなった。
翌日、翔一郎は佐竹に連絡を取り、無理やりランチのアポイントを取り付けた。
佐竹の事務所がある飯田橋近くの洋食屋で佐竹の登場を待っていた。
「なんやねん、翔一郎。40分位しか時間ないでぇ。」
急な呼び出しに少々機嫌が悪い様子だったが、翔一郎は気にも留めずに会社設立の準備に入っていること、八木から出資の申し出を受けていることを説明した。
「取り敢えず食おかぁ?」
佐竹は翔一郎の話には一切興味を示す素振りもなく、チキンソテーと格闘し始めた。
食事も終わり、食後のコーヒーが出て来たところで、佐竹はようやく口を開いた。
「そのお金、絶対ないとあかんの?」
佐竹は少し批判的な口調だった。
「いや、あるにこしたことないけど、元々ないものとして計画を進めていたから、なくても何とかなると思うよ……。」
「それで翔一郎はどうしたいねん?」
「話を聞く限り、悪い話ではないと思うんだけど……。
どうすればいいのか正直分からないんだ。
会社を設立する時って何かと経費がかかるし、少しでも資金が多い方がいいかなと……。でもやっぱり不安だから佐竹に一度相談しておいた方がいいかなと思って……。」
佐竹は翔一郎の顔を覗き込み真剣な面持ちで話し始めた。
「基本的なことから言うでぇ。まず他人に出資してもらうっちゅうことは、翔一郎以外に株主がいるっちゅうことや。」
「……。」
「株主には権利があって、意識せんとあかんのは、1/2(普通決議)と2/3(特別決議)や。
2/3以上持ってることが望ましいけど、少なくとも1/2以上持ってたら大丈夫や。1/2以下やったら極端な話、会社から追い出されることもあるからな。
今回の話やったら、翔一郎が60%を保有するカタチになる訳やな。
よう理解せんとあかんのは、法律の話とちゃうでぇ。
誰かが他人の会社にお金を出資する理由考えたことあるか?」
「それは、その会社自体や事業計画や経営者に魅力があるからと違うの?」
翔一郎は自信を持って答えた。
「そうや、間違ってない。じゃぁ、その八木さんは出資してどないしたいと思う?」
「どないって……。」
「もちろん例外がない訳やないけどな、大概、
①事業を成功させて役員報酬や配当をもらいたい
②自分自身の事業との連携を図りたい
③出資した持分を将来売却(株式公開や株式譲渡)して譲渡益(キャピタルゲイン)を獲得したい
って思ってるんや。」
翔一郎は、まあそういうことだろうなぁと思った。
しかし、佐竹が何を熱く語っているのか真意は分からなかった。
「お金だけ出して、口を出さへんケースもある。特に企業連携が目的の出資なんかはこのパターンが多い。
でもな、ベンチャー企業の場合は、大抵お金を出したら口も出すんや。
経営者としての経験が少なくとも3年以上あったら、口出しされても、自分の意見を言えるやろう。
でもな、新米経営者は無理や。
経験がないやろ。
何が正しくて、何が間違いかなんて判断でけへん。
挙句の果てに、追加出資してくれるんやったら、言う通りにしますなんてことになるんや。これやったら誰の会社か分かれへんで。」
翔一郎は実際のところあまり理解できなかった。
佐竹はそんな翔一郎の様子をうかがいながら更に続けた。
「他人のお金が入ると、冒険するヤツが多いねん。
例えば費用対効果が見えへん中、広告宣伝に過剰投下してみたり、人員を身の丈より多めに雇ってみたり……。
そして資金の底が見えてくると祭りのあとのような寂しさと、赤字のP/Lだけが残ってしまうねん。
自分のお金やったら、まず同じ戦略は取らへんで。
おもろいことに、お金をかけたケースとお金をかけへんケースやと、俺の知ってる限り、お金をかけてへんヤツの方が実際結果出してるんや。」
「へぇー。」
それには翔一郎も強い興味を持った。
「今の時代、お金がなかったらないなりに、自分で工夫したら何とか出来るんや。
お金があったら、すぐその道のプロに発注して任してしまう。
自分の会社の事業戦略は自分にしか描かれへんねん。
その事業戦略を外注業者に説明して、カタチにしてもらっても、大概失敗するんや。
最初から最後まで考え抜いた上で、外注業者に頼まんとあかん“作業”だけを外注するべきなんや。
自分で進めてるうちに、色々気づくこともあるやろ。
そうしたら軌道修正ができるんや。でも早い段階で外注業者にアウトソースしてしまうと、気づくべきことも気づけへんねん。せやから、お金に頼らんと、出来るだけ自分でやった方がうまくいくんやと、俺は思うねん。」
佐竹の熱弁に圧倒されながらも、何となく自分が進むべき方向が見えてきたような気がした。
佐竹は腕時計に目をやり、立ち上がった。
「やばい! 早よ戻らんと。ご馳走さん!」
そして去り際に早口で付け足した。
「翔一郎、出資してもらうんは、もっと先や。
事業が軌道に乗って大きな資金が必要になってきたら、時価増資(10)や、時価増資!」
そう言いながら、佐竹は神楽坂の方へ消えていった。
翔一郎は、レジで会計を済ませ領収書をもらうと、八木へ電話をかけ、今回の出資の申し出を丁重に断った。
「あれ、この食事代はこれから設立する会社の経費(11)になるのかな?」 ふと疑問に思った。
(10)時価(発行)増資とは、その増資時点の時価を元に1株当たりの株価を算出するため、企業価値が高くなっていると、株式所有割合を低く抑えたまま多額の資金調達が可能となる。
(11)法人の設立期間中に発生した費用は、その法人の経費として取り扱うことができる。
但し、創立・開業のために要した費用のみ。また会社設立前に発生した売上げや原価もその法人の損益として取り扱う。
参照:法人税基本通達2―6―2(法人の設立期間中の損益の帰属)
次の週末、佐伯司法書士事務所を訪れた翔一郎は、詳細を入力したデータをフロッピーディスクに入れ、印鑑証明書(本人2通、妻1通)と出資金を振り込んだ個人の普通預金通帳のコピー(12)を佐 伯に渡した。
一、会社の商号 株式会社ブランニュースター
二、会社の目的
1.コンピュータシステム、ネットワークシステム及びソフトウェアの開発保守
2.ウェブサイトの制作及び運営
3.インターネットを利用した各種コンサルテーションサービス
4.前各号に附帯又は関連する一切の業務
三、本店所在地 東京都港区芝園1―5―20―203
四、資本金の額 300万円
五、役 員 代表取締役 真田翔一郎(発起人兼全額出資者 真田翔一郎)
取締役 真田美佳(妻)
六、決算月 9月末日(12ヶ月決算)
さらに詳細について、相談の結果、次の通り決まった。
七、株式の譲渡制限を設け、取締役会は設置しない
八、監査役は置かない
九、取締役の任期を10年(最長期間)に設定
十、株式は1株1万円換算で300株を発行する
法人の印鑑は、佐伯の指導により、実印と銀行印を分けてそれぞれ1本ずつ作成した。
(12)資本金は、個人の通帳に別の預金口座から出資者本人の名前(姓名)で振り込み、入金記録のあるページをコピーすれば登記上の必要書類が出来上がる。
昔のように銀行で出資金を別段預金に入れ、払込保管証明を取得する必要はない。(発起設立の場合)
ちなみに法人の場合、実印とは法務局にて印鑑登録する印鑑のことを言い、銀行印とは銀行に法人口座を開設する際、登録する印鑑のことをいう。
従って、実印で銀行口座を開設すれば、実印兼銀行印となり、1本で済むとのことだ。
設立日は10月1日とし、登記簿謄本が出来上がったら履歴事項全部証明書というものを3通(1通当たり印紙代1000円)取ってもらうことになった。
銀行での口座開設用に1通と税務申告用2通(税務署用1通と都道府県税事務所用1通)が必要になるからだそうだ。
佐伯司法書士事務所からの帰り道、秋の空がとても高く感じた。
新しい人生のページが開かれたような気がして、無性に嬉しかった。
9月30日、8年勤めた芝園貿易に出社する最後の日だ。
今までお世話になった社内の人に挨拶をして回った。
夜に送別会を開いてくれるというので、久しぶりに深酒をしてしまった。
やっと開放されて1人タクシーに乗り込むと、もう午前2時だった。
「あっ、10月1日か……。」
その後どうやって家に帰ってベットに入ったのか全く覚えてない。
そして……。
つまで寝てるの!」
美佳の不機嫌な声が遠くから聞こえた。
二日酔いで寝坊したらしい。
早く支度しないと。
いや昨日で会社を辞めたんだった。
確か送別会で飲みすぎて……。
真田翔一郎は8年勤めた株式会社芝園貿易IT事業部の主任という肩書きを最後にサラリーマン生活に別れを告げたのだった。
〈主な登場人物〉
株式会社ブランニュースター
代表取締役 真 田 翔一郎(主人公)
取 締 役 真 田 美 佳(妻)
株式会社ネットバリュー
代表取締役 山 崎 隆 一(元上司)
税理士法人アシスト
税 理 士 佐 竹 孔 明(大学の友人)
読者の皆さまの個別要因及び認識や課税当局への主張の仕方により、税務リスクを負う可能性も十分考えられますので、実務上のご判断は、改めて専門家のアドバイスのもと、行うようにして下さい。
弊社は別途契約を交わした上で、アドバイスをする場合を除き、当サイトの情報に基づき不利益を被った場合、一切の責任を負いませんので、予めご了承ください。